ときは1995年、約50年前にアメリカ、ロズウェル近郊で行われたといわれる宇宙人解剖の映像が欧米で一斉放映された。ところがこの映像、ロンドンに住むチンピラ、レイとその友人ゲイリーという2人の若者が撮影したものだった!? 本作はニセ映像を撮影するに至る事情から大騒動の舞台裏まで再現ドラマタッチで描いたコメディーである。レイとゲイリーに扮するのは人気2枚目半タレント、 Ant & Decの2人組。イギリス人たちの間では、彼らが出演するコメディは笑えない、が一般常識である。哀しいかな、本作もトップコメディアンたちの援軍があるにも関わらず、例外ではなかった(号泣)。 しかあし! 笑えるかどうかに固執さえしなければ、非常に楽しめる。というのも実話と公表していないが、プロット展開が非常にリアルで実話っぽいのだ。とくに、レイが解剖映像を入手したいきさつ、家に持ち帰ったら何も映っていなかった理由、ウソでもいいから解剖映像が必要な事情、そして肉詰めやジャムなどを使用した撮影の一部始終など‘暴露話なのかも?’と思わせてくれる。おまけに最後には ‘本物のレイ’ まで登場する始末。でもこの人、本作のプロデューサーであり、TV界で活躍中だから、世界中をだました張本人とは信じがたい。 一体これはfiction or non-fiction?宇宙人の解剖映像はhoax or real? どちらかわからないが、逆にそれがいいのだ。なぜなら謎があってこそのSFロマンなのだから。
スペインはイビサ島をベースにヨーロッパ中のクラブシーンを熱狂させる天才DJフランキー・ワイルド。酒とドラッグ、そして爆音漬けの ‘天国’な日々を送る彼に突然悲劇は訪れる。完全に聴力を失ってしまったのだ。マネージャーはおろか妻子にまで愛想を尽かされ、重苦しいほどにabsolute silenceのなかドラッグが生み出す幻影と闘うフランキー。やがて事実を受け入れた彼は、手話教師ペネロープとの出会いを経て再生の道を踏み出す……。 The following is based on a true story….この冒頭文のせいで、実在の人物フランキー・ワイルドを元コメディアン、今や本格俳優のポール・カイがブラックユーモア交えて演じた再現ドラマがベースのドキュメンタリー映画なのかと思ってしまった。じつはフランキーはfictional character(架空の人物)、この映画の形式はmocumentary(ドキュメンタリーを装ったフィクション)だったのだ! Paul Van DykeやCarl Coxなどの有名DJが当時の様子を語るシーン、hearing impaired(聴覚障害)となったフランキーが、スピーカーの振動とコンピューターでヴィジュアル化した音を使い音楽制作する様などがあまりにリアルすぎて見抜けなかった。向こうの思うつぼどおり、騙されるなんて! 嗚呼、バカ丸出し。しかぁし、騙されて何が悪い、と開き直るだけの感動がある。完全なる絶望の中にも希望の光は見つかる。諦めるな、掴みとれ、そして妥協するな。久々に観た、胸がじんとなるポジティブ映画だ。
父亡き後、倒産寸前の男性靴工場を継いだ若旦那チャーリー。Drag Queenローラとの出会いから、彼のような人々専用のboots作りを思い立ち、工場を救うため奮闘する。「Kinky Boots」は公開時かなり話題を呼んだため、ここでわざわざ紹介するのは? と編集者様からご指摘を受けたのだが、ゴリ押しさせてもらうことに。というのもこの作品、イギリスの超人気コメディ俳優ニック・フロストが出演しているのだ! 「ゾンビ」のオマージュとして作られた空前の大ヒット映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」で彼の好演ぶりが記憶にある人も多いのではないだろうか。 今回の彼の役どころは、靴工場で働くcraftmenの1人、ドン。男たるものは男らしく、を信条とする彼は、地元のパブが主催する腕相撲大会の歴代チャンピオン。工場にやってきたローラを毛嫌いする。トイレはどこかと聞かれても‘I’m afraid we’ve got only men’s and women’s’と痛烈な攻撃。工場に貼られたポスターの‘Foot Wear. A Range of Shoes for Men’というキャッチコピーを ‘Queen Gear. A range of Shoes for Benders’と書きかえてイヤがらせする。イギリスでは男性をよくlad(s)と呼ぶが、それはいわゆるドンのようなオトコどものこと。彼を通してman/menやblokesとのニュアンスの違いが学べる。 さて、ドンの態度に堪忍袋の緒が切れたローラは彼と腕相撲対決に挑む。私的には意外な結果を生むこのあたりのシーンが印象的。じんとさせられます。
05年度ゴールデングローブ賞で最優秀主演男優賞を受賞し、全米コメディ界で最も旬なスティーブ・カレルの初主演作「40歳の童貞男」。これは大人としての自信を失い、子供のままでいることの居心地良さに甘んじる’Peter Pan Syndrome’ に陥った男性をsexualityの観点から描いている。 大型電化製品チェーン店Smart-Techで働くアンディは40歳で童貞。’I tried but it just didn’t happen.’(頑張ってみたが、ダメだった)と自分でもその理由がわからない。今となってはコンプレックスを克服するどころか現実逃避。おもちゃとゲームに囲まれた‘ネバーランド’に閉じこもり、平穏に暮らしていた。ところがある夜、珍しく同僚たちに誘われてポーカーに参加。会話の流れは下ネタへと向かい、彼もセックスについて語るハメになってしまう。‘……Her breast, it feels like a bag of sands.’(彼女の胸は砂袋のよう)。未経験者ならではのその一言で彼が童貞だとバレてしまい……! ‘From now on, your dick is my dick.’(これからはオマエのナニは俺のナニだ!)と面白半分で世話を焼く同僚たちに振り回される一方、孤独だった彼の人生は着実に変化していく。女性経験豊富な様子だったのに恋人に捨てられて嘆く同僚を見たり、憧れの女性にセックスなしの交際を提案されたり。そんななか、彼はセックス経験の有無は些細なことだと悟っていく。そこには ‘素の自分に自信を持て’というメッセージが。40歳キモオタクの童貞喪失物語がただの笑い話に終らず、共感と感動をもたらすのはそこにある。